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前回の1961年製のアグアドのブレッシングを覚えておいででしょうか? 下のハーモニックバーが斜めになっており扇状のストラッツはそれぞれ長さが異なるものの全体的に均衡がとれたブレシッシングでした。さて、4年後に製作された1965年製のアグアドをごらんください。ストラッツは6本はそれぞれ長さが異なり配置も不均衡な感じがします。そして高音域にかけて一本、斜めのストラッツが入っています。マニエル・エルナンデスがどのような意図でこのようなブレッシングをしたのかは解りませんが、音質は1961年製のものと比べだいぶ変わっております。1961年製のアグアドは明るく華やかな感じで響きます。1965年製のこのアグアドは重厚感があります。かといってサスティーンは長く響きは豊かです。しかし離れて聴くと、こちらの1965年製のアグアドが遠達性にすぐれているように思われます。ちなみに重量は1470gから1560gと90g増加しております。むろんサイド・バックは現在では考えられない程、上質のハカランダを使用しています。前々回のハウザーの裏世界でも述べましたが、この時代はコンサートホールで通用すべくより音量や遠達性が重視されていた時代でした。(現在はより多様性を求めている時代です。むろん製作家によってはさらなる音量や遠達性の追求をしてもおりますが...)やはり遠達性を求め、表面板をはじめとして厚くした結果なのでしょうか?
ただ、ハウザーと異なりアグアドは手元でも響きます。全般的に60年代のアグアドは美しい音色、倍音が豊か、かつ遠達性もそこそこあり、その両者のバランスが大変優れている楽器だと思います。故にクラシックギターの貴婦人とも呼ばれる所以でしょうか? 70年代に入りラミレスの影響を受けてかわかりませんが、設計変更をしたアグアドはレッド・シダーの採用やや大型化したボディーに変遷していく過程はビクトリアーノ・アグアドの引退や時代の楽器に対する要求を反映させているように思えてなりません。60年代のアグアドは正に銘品だと思います。